粉骨は違法ではないのか?(死体損壊罪に該当しないのか?)

粉骨は火葬後のご遺骨(焼骨)を粉末状にする行為です。遺体の取扱いについては刑法に「死体損壊罪」という罪があるため、粉骨は遺体損壊罪に該当しないのかという疑問が生じます。

散骨の適法性などについてはインターネット上などでも多数の記事があり、このブログでも詳しく解説してます(参照:散骨の法律や条例の知識 ~散骨時の注意点やマナーを知るために~(2017.12最新 詳細版))が、散骨準備や自宅供養のために粉骨をする行為の適法性について解説されているページはあまり見当たりません。

そこで、この記事では粉骨そのものの適法性について考えてみることにします。

六法全書の写真

火葬場で火葬することはなぜ死体損壊罪に該当しないのか?

粉骨が犯罪にならないのかを考える前に、同じように死体損壊罪に該当しそうな火葬について考えてみます。

刑法には死体損壊罪が規定されています。その条文は下記の通りです。

刑法(死体損壊等)
第190条 死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する。

ここには「死体」または「棺に納められてある物」を「損壊」したら犯罪になると書かれています。「損壊」とは「死体等を物理的に損傷・毀壊すること」をいうとされていますので(最判昭23.11.16)、火葬することも「損壊」に該当することになります。つまり、火葬場で火葬することも形式的には死体損壊罪の犯罪構成要件に該当するということになるのです。

しかし一方刑法は、「正当行為」というものも定めています。

刑法(正当行為)
第35条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

正当行為というのは、形式的には刑罰法令に触れるものの、処罰すべき違法性がないことによって犯罪が成立しないものをいいます。たとえば、現行犯逮捕は形式的には刑法の逮捕罪に該当しますが、刑事訴訟法第213条に定められているため違法性はなく犯罪は成立しません。これは刑法第35条の「法令」による行為に該当するということです。

また、医師が治療のために患者の身体を傷つけることは、形式的には傷害罪に該当しますが、患者の救助などのために行われるものであり「正当な業務」による行為として違法性はありません。つまり傷害罪は成立しないということです。

火葬場における火葬については「墓地、埋葬等に関する法律」が下記のように定めています。

墓地、埋葬等に関する法律
第2条2項 この法律で「火葬」とは、死体を葬るために、これを焼くことをいう。
第5条1項 埋葬、火葬又は改葬を行おうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)の許可を受けなければならない。

つまり、火葬場における火葬は、「墓地、埋葬等に関する法律」に定められた市町村長の許可による行為であるため、形式的には死体損壊罪に該当しても、刑法第35条によって違法性はなく犯罪にはならないということなのです。

粉骨することは死体損壊罪にならないか?

粉骨は遺骨を粉末状にすることですから、刑法第190条死体損壊罪の「遺骨」を「損壊」することに形式的には該当します。一方、散骨や自宅供養のために粉骨することについて規定している法律はありません。散骨という葬送方法が世間に広く知られている現在においても、散骨を正面から扱った法律は日本にはないのです。

そのため、形式的に遺体損壊罪の犯罪構成要件に該当する粉骨が、法令による行為として刑法第35条によって違法性がなくなるとする根拠はありません。

しかし、散骨については非公式ながら法務省の見解があります。1991年に法務省刑事局は「葬送のための祭祀として節度をもって行えば違法ではない」との見解を示したといわれています1。つまり「葬送のための祭祀として節度をもって行えば」散骨が犯罪になることはないということです。

そもそも死体損壊罪は「社会秩序としての一般的な宗教感情や死者に対する敬虔感情」が保護法益だとされています2。死体は確かに「物」に過ぎないともいえるけれども、社会一般としては生きている人間と同様に敬意を払って丁寧に扱うべき対象であり、これを粗末に扱うことを認めたら社会秩序は維持できない、といったところでしょうか。このことからすると、法務省の「節度をもって」とは、葬送のために死体を敬って扱うということを意味しているということになります。

「節度をもって」散骨を行うには、焼骨をそのままの形で撒くことは認められないでしょう。骨の形の残った焼骨を撒けば、それこそ遺骨を粗末に扱っているように一般の人からは見えるからです。したがって一般的に散骨をする際には一見して遺骨とわからないように粉末化すべきだと考えられています。「節度をもって」散骨をするための準備としての粉骨は、散骨が認められるのであれば当然認められていると考えられるものです。

これは自宅供養で遺骨の嵩を減らしたり、分骨したりするための準備として粉骨をする場合も同様でしょう。遺骨を自宅に安置することを禁じる法律はなく、供養のために遺骨の形を変えることは当然に認められていると考えられるからです。

つまり、散骨や自宅供養、分骨など、供養の準備として行われる焼骨の粉骨は刑法第35条の「正当行為」として違法性が阻却され、死体損壊罪は成立しないということです。3

粉骨の仕方には注意が必要

散骨や自宅供養の準備など、供養のために遺骨に敬意を払って行われる粉骨が、法律上問題になることはありませんが、目的に問題がなくても粉骨の仕方に問題があれば違法となる可能性が皆無ではありません。

たとえば、粉骨前の遺骨の乾燥のため、近隣から目に付くような場所で焼骨を干していれば、それを見た人々の「死者に対する敬虔感情」が害される恐れは十分あります。また、通行人から目に入るような自宅の庭先で粉骨作業を行うことも同様です。目的に問題がなくても手段において死体遺棄罪が保護しようとしている法益を侵害する可能性はあります。

したがって、散骨や自宅供養など粉骨の目的が正当であっても、粉骨を行う際の手段の選択には注意が必要です。他人の目に入るような場所で粉骨を行うことは避けなければなりません。

もし仮に自分で粉骨を行おうという場合には、他人の目に触れない方法で行うということに注意しましょう。また、もっとも無難なのは粉骨代行業者に依頼することだと思います。

 


  1. 大塚 仁/河上和雄/中山善房/古田佑紀 編『大コンメンタール刑法〔第三版〕第9巻 第174条~第192条』(青林書院)217頁 
  2. これらの見解は非公式のものなので正式な形で文書は存在していません。ただし下記の文書内に法務省の見解を前提としたやりとりが残されています。
    第6回「これからの墓地等の在り方を考える懇談会」議事要旨【厚生労働省】 
  3. この点について、省庁や裁判所などの公式見解や裁判例があるわけではありません。ただ、現在まで日本において散骨や自宅供養のために行われる粉骨について法律上問題になった例がないのが事実です。