他人の土地に勝手に散骨してはいけない (例えばテーマパーク内とか…)

出来る限り故人の好きだった場所に散骨したいと考えるのは人情というもの。でもその場所が本当は散骨してはいけない場所だったらどうでしょう。

アメリカのテーマパーク内で繰り返される散骨

少し前にメディアに載っていた話なのですが、アメリカのとあるテーマパークでは、遺灰をまく人が後を絶たないのだそうです。

「とあるテーマパーク」とぼかして書いたのは、そのテーマパークにとってはそのような事実を記事にされること自体が営業にとって好ましくないだろうと思うからです。もっぱら遺灰をまいてしまう人のモラルの問題であり、テーマパーク運営側の問題ではないですし。

来場者が遺灰をまく場所としてもっとも多いのは歴史のあるアトラクションの1つだそうですが、水上を移動するアトラクションで水の中にまく人や、芝生や花壇などにまく人もいるのだそうです。

もちろん、テーマパーク側ががこれを許可しているわけもなく、私有地に許可なく遺灰をまくことは完全に違法です。スタッフがこのような行いを見つけると、ただちに細かい塵まで吸い取れる掃除機で遺灰を回収するのだそうです。

いっそのことテーマパーク内に正式な散骨場所を設けたら良いのではないかと考える人もいるでしょうが、やはり遺灰や遺骨に対してあまり良い印象を持たない人もいますので、楽しいイメージが重要なテーマパークには全くそぐわないことになり無理な話でしょう。そこで、違法であることを知りながら見つからないように遺灰をまく人が続出するわけですが、結局掃除機で吸い取られるなんて何とも寂しい結果になるということですね。

日本では火葬後の焼骨は遺骨としての形が残っていますし、個人で粉骨をするのは難しいのですが、アメリカの火葬は火力が強く灰になりますのでまきやすいという事情もあるかもしれません。

他人の土地に許可なく散骨することの問題点

上の記事では、遺灰をまいていることを発見された来場者はテーマパーク外に連れ出されるとしか書いてありません。ただ、散骨を発見した場合、そのアトラクションの運転を停止し、待たされる他のお客に優待的な対応をし、スタッフを動員して清掃にあたるというのですから、それだけでも損害が生じています。

それでも、テーマパーク側としては、遺灰をまいた人に対してそれほど強硬な対応をしているという話は聞きません。熱烈なファンであることに配慮しているのか、それとも強硬な対応で注目を集めてしまうことでかえってブランドを毀損することにならないように配慮しているのかはわかりません。

しかし、私有地に許可なく散骨することは、大きな問題につながる可能性があります。ここでは日本国内での問題についてみていきましょう。

刑事責任

他人の土地で許可なく散骨をすることは、そこが業務を行っているような場所である場合、業務妨害罪に問われる可能性があります。

刑法
第233条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第234条 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

遺骨や遺灰は遺族にとっては愛しく大切なものかもしれませんが、他人にとっては畏怖または嫌悪するような対象であることも珍しくありません。そのようなものを業務を行う場所にまくことは、それによって業務を妨害することになり、威力業務妨害に該当する可能性があるでしょう。

また、施設に遺骨や遺灰をまくと清掃しなければなりませんが、どんなにきれいにしたとしても遺骨や遺灰が付着した物という心理的なマイナスイメージは消えないため、「心理的毀損」として建造物損壊罪や器物損壊罪に該当する可能性もあります。

刑法
第260条 他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
第261条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

自分の親しい人の遺灰や遺骨は、主観的には決して忌避すべきものとは思えないでしょうが、一般社会通念からすれば嫌悪の対象にもなりうるものです。場合によっては刑法上の犯罪にもなりうることをきちんと意識しておくことが大切です。

民事責任

故意や過失によって他人の利益を侵害した場合、不法行為損害賠償責任を請求される可能性があります。

民法
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

そこが他人の土地であり、権利者の承諾がなく、自ら意図して遺骨や遺灰をまくのですから、その行為に故意や違法性があることは否定できないでしょう。また、遺骨や遺灰をまくことと因果関係にある損害が生じていることも間違いなく認められると思います。

特にアミューズメントパークのように、顧客の持つ施設に対するイメージが重要であるような場合には、迅速に遺灰・遺骨を処理したり、他の顧客をその場所から退避させるなどの措置も必要となります。清掃スタッフの人件費などだけではなく、他の来場者に影響を与えたことまで因果関係のある損害と認定される可能性も十分あります。したがって、損害賠償額は相当な多額になる可能性もあるということです。

散骨は他人に迷惑をかけず法律を守って行うことが大切

故人や遺族がどんなに大好きな場所だったとしても、他人に迷惑をかけたり、違法なことをしてまで散骨をすべきではありません。しかも、そこまでして散骨をしても、結果的には掃除機に吸い込まれゴミとして廃棄されてしまう可能性すらあるのです。「自分だけはバレない」と思っていても実際には知らないところで清掃されている可能性も高いでしょう。

また、違法な方法で散骨をすることで、思わぬ重い責任を負うことになる可能性すらあります。それほどのリスクを負って散骨してもらいたいと考えていた故人がどれだけいるでしょうか。

散骨は故人を自然の中に還す一つの素晴らしい葬送の方法だと思いますが、極端に特定の場所にこだわるのではなく「世界は繋がっている」、「地球がお墓だ」というぐらいの気持ちでするのが良いのではないでしょうか。

散骨に関する法律や条例、守るべきマナーについて、詳しい内容は下記の記事を参考にしてみてください。

散骨場所を選ぶ際の注意点まとめ

散骨の法律や条例の知識 ~散骨時の注意点やマナーを知るために~(2017.12最新 詳細版)