墓じまいの現状と人口減少社会 ~次世代に問題を先送りしないために~

従来から、お墓は代々受け継がれていくのが当然だと考えられてきました。しかし、ライフスタイルの変化や家族に対する考え方の変化、あるいは経済的な背景などによって未婚率は上昇し出生率は低い状態が続いていることで、お墓を承継する人がいないということも多く生じるようになっています。また、人口の都市部への集中と地方の過疎化などの状況の中で、承継したお墓が遠方にあることで管理の負担を強く感じている人も増加しています。

このような状況の中、注目を集めているのが「墓じまい」です。今回は、この墓じまいの現状を見た上で、「先祖代々の墓」を墓じまいすることの意味について考えてみたいと思います。

墓じまいとは

「墓じまい」とは、現にあるお墓の墓石を撤去して墓地を更地に戻し、納められていた遺骨を取り出して他の供養方法をとることをいいます。他の供養方法としてとられるものとしては、新たなお墓への遺骨の移転、永代供養塔など合祀施設への納骨、散骨、手元供養などがあります。遺骨を他の場所に改めて納骨することが多いので、墓じまいは「改葬」と呼ばれることもあります1

墓じまいの現状

無縁墳墓(無縁仏)の墓じまい(改葬)はどれくらい行われているか

「墓じまい」は現在どれくらい行われているのでしょう。厚生労働省が発表している統計データ「衛生行政報告例」の中に「埋葬及び火葬の死体・死胎数並びに改葬数,都道府県-指定都市-中核市(再掲)別」というものがあります2

このデータの中に「無縁墳墓等の改葬」に関しての数値があります。これは、お墓の承継者が不在(又は連絡がつかない)となった無縁墓(無縁仏)を墓地・霊園管理者が撤去して遺骨を共同供養塔などに納骨した場合を指すものです。その数は、2007年度から2016年度の10年間で計35,383件であり、年平均で約3,500件の無縁墓(無縁仏)が処理されていることになります。

承継者不在となったお墓は、たとえ永代使用料を支払っていたとしても無縁仏となり、納骨されていた遺骨は永代供養塔などに合祀することになります。「墓地、埋葬等に関する法律施行規則」に定められた手続きに従って処理されるのです(詳細は参照:永代使用料を払ったのに無縁仏?少子高齢・多死社会の厳しい現実)。承継者が不在、または連絡不能となっているのでこれらの改葬(墓じまい)費用は、墓地を管理する自治体や霊園経営者・寺院などが負担することになります。

自主的な墓じまい(改葬)はどれくらい行われているか

このような事態を避けるためには、承継者のいないお墓を責任をもって事前に処理したり、管理が困難なお墓から管理しやすいお墓への遺骨の移転をする必要があります。このような墓じまい(改葬)はどれくらい行われているのでしょう。

先ほどの「埋葬及び火葬の死体・死胎数並びに改葬数,都道府県-指定都市-中核市(再掲)別」から「改葬」の数の推移を拾ってみると、年によって増減はあるものの全体に増加傾向にあることがわかります。2007年度の改葬数は73,924件であるのに対し2016年度の改葬数は97,317件で、比率にして132%です。

2007-2016年度改葬数の推移グラフ(厚生労働省-衛生行政報告例データより)

墓じまいと人口減少社会

グラフから見る全体的なトレンドからすれば、墓じまいの増加傾向は今後も続くことが予想されます。日本は人口減少社会に突入しており、人口減少に歯止めがかからない限り、現存のお墓を承継する人の数は不足していくでしょう。

ただ、墓じまいを行う個々の人々の事情が直接に人口動態と関連しているとはいえないでしょう。個々人が人口動態を意識して選択をしているわけではないからです。個別に見ていくと、「お墓が遠くて管理が大変だから近くにお墓を移転させたい」という人もいれば、「承継者がいないから自分の代できちんと墓じまいをしてしまいたい」という人もいます。また、兄弟の少ない夫婦であれば、両家の墓を継ぐことになって管理負担が大きいため「ひとつにお墓をまとめたい」というニーズもあります。大まかにみると「墓参りや管理の負担」「金銭的負担」「承継者不在」などの理由が中心にはなっています。

このように個々の事情はさまざまです。しかし、人口減少の動向と墓じまいの増加がリンクしているように見えることは興味深いことです。総務省統計局が発表している人口推計によれば、日本における総人口はピークの2008年から比較して2016年には約110万人も減少しています。2010年からは一貫して減少していますが、改葬数は2010年以降増加傾向にあります。3

日本の総人口と改葬数の推移グラフ(2007-2015 総務省統計局人口推計データより)

少子化など家族構成の変化、多死社会と呼ばれるような段階に日本社会が入ってきたことなどからすれば、墓じまい(改葬)数の増加は当然の流れなのかもしれません。

墓じまいに抵抗感を持つ必要はない

実は3、4世代しか眠っていない「先祖代々の墓」

墓じまいをする際に新たな墓を建てない場合、「ご先祖様に申し訳ない」と考える方が多くいらっしゃいます。先祖からずっと続いてきたお墓を自分の代でなくしてしまうのだ、という罪悪感が心理的負担になる人も多いのです。

しかし、「先祖代々の墓」と考えられている墓の多くは、実はほんの3,4世代分のお墓に過ぎないことが多いのも現実です。現在では火葬して焼骨を一家の墓に納骨するのが当たり前と考えられていますが、日本で火葬が普及しはじめたのは明治時代以降のことで、大正14年(1925年)でも火葬率は43.2%に過ぎなかったとされています4。現在ほぼ100%といわれている日本の火葬率が50%を超えたのも昭和10年頃だともいわれています。土葬は故人1人ずつの墓であることが通常ですので、「先祖代々の墓」というあり方が日本で主流になってからまだ100年も経っていないということです。そして多くの場合、土葬されていたはずの古い先祖の遺骨は現在の墓の中には納められていません。

もちろん数代であっても守られてきた墓をなくしてしまうことへの抵抗を感じる人はいるでしょう。ただ、「先祖」といっても多くの墓は数代の人々の墓に過ぎないのだということを理解しておくことは無意味ではないと思います。

墓じまいをすれば問題を次世代に先送りしなくて済む

承継者のいない墓を放置しておけば、墓は荒れ、無縁墓になりいずれは撤去されてしまいます。承継者がいる場合でも、墓を継いでもらうことはもしかしたら問題を次世代に先送りしているだけなのかもしれません。実際、承継者がいる方でも「子供や孫を墓参りに誘ってもなかなか一緒に来てくれない」という理由で墓じまいを検討する方もいます。

率直にいえば、「先祖代々の墓」に本当に昔のご先祖様が眠っていることはほとんどありません。そうであれば、罪悪感や抵抗感にさいなまれるよりも、未来の子孫のことを考えてお墓のあり方を検討する方が良いのではないかと思います。

また、本当に承継者がいない方の場合は、放置していれば無縁墓(無縁仏)になってしまうことは避けられません。無縁墓(無縁仏)になってしまうよりも、自分の代で墓じまいをして遺骨をしかるべき方法(合同供養塔などへの納骨、散骨など)で供養することは、前向きで良い選択だといえると思います。

先に見たように日本は人口減少社会に突入しました。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば総人口2040年の1億1,092万人、2053年には9,924万人、2065年には8,808万人になるとされています(出生中位推計)5。お墓を増やすのはもちろん、現状のお墓の数のままであっても、それを管理していくことが難しいことは明らかなように思えます。本来は、個々人が墓じまいについて頭を悩ますだけでなく、社会全体としてお墓のあり方自体を見直し、将来世代に負担を先送りしないようにすべき時期にきているのではないでしょうか。

 

 


  1. 厳密にいえば、現にあるお墓を撤去して遺骨を取り出したとしても、改めて埋葬(納骨)するとは限りません(散骨など)。「墓じまい」という言葉そのものからは改めて埋葬(納骨)するというニュアンスは感じられませんので、改めて埋葬(納骨)する場合には「改葬」と呼んだ方が適当なように思います。しかし、一般には「墓じまい」と「改葬」という言葉は厳密に区別されていないというのが現状でしょう。 
  2. 衛生行政報告例【政府統計の総合窓口】 
  3. 人口推計(平成29年(2017年)8月確定値,平成30年(2018年)1月概算値)(2018年1月22日公表)【統計局ホームページ】 
  4. 勝田至 編『日本葬制史』(吉川弘文館)P293~ 
  5. 日本の将来推計人口(平成29年推計)報告書【国立社会保障・人口問題研究所】