墓じまいで原状回復義務が免除される明石市の特例は効果を上げている

「お墓を引き継ぐ人がいない」、「お墓の管理料の負担が難しい」、「遠方でお墓に通えない」そんな理由でいわゆる「墓じまい」を希望する人は増加傾向にあります。ただ、墓じまいにもお金がかかるのが悩ましいところ。特に経済的理由で墓じまいをしたいのに、まとまったお金がないと墓じまいできないのは何とも辛い状況です。

明石大橋の写真Photo credit: bryan… on Visualhunt / CC BY-SA

原状回復なしに墓じまいできる明石市の特例

このような事情を汲んで行われているのが明石市の特例。市営の「石ケ谷墓園」で墓じまいをする場合、2017年4月から2020年3月までの特例として現状回復撤去工事を免除することとなっています。

参考 : 返還の手続き/明石市

墓じまいをする際には、墓石の撤去工事を行い、お墓に埋蔵されている遺骨を引き取らなければなりません。遺骨は他の墓地に改葬することが多いものの、お墓自体の承継をやめようという場合には共同供養塔などに合祀したり、自ら散骨を行うなどをします。

ただ、墓じまいの撤去工事には30万円程度の費用がかかる場合もあり、遺骨の改葬費用なども合わせるとその負担は決して小さなものではありません。結局、墓じまいの費用が捻出できないためにお墓が放置されて無縁墓になってしまい、無縁仏の処理手続きを自治体が負担しなければならなくなることもあります(参照:永代使用料を払ったのに無縁仏?少子高齢・多死社会の厳しい現実)。実際には使われていないお墓がある一方で墓地の供給は追いつかないという悪循環になっているという現実もあります。

そこで、明石市が上記の特例を行ったところ、今年11月には例年の2倍の区画で申し込みを受け付けることができたとのことです。

明石市の担当者は「今年11月に行った募集では、いつもの年の2倍の50区画で申し込みを受け付けられました」と話し、早くも成果を挙げている。

墓返還希望者が倍に! 深刻な墓不足で明石市が取り組む“奇策”とは? (1/2) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

また、以前から墓石撤去などの代行を行っている東京都でも、墓所返還の申込は代行を行う前の数倍に増加しているとのことです。

東京都は、都立の青山霊園と谷中霊園の再生事業で、使用墓所を返還する際、墓石の撤去工事と埋葬遺骨の取り上げを都が代行する特例制度を実施している。
(中略)
都の担当者によると、墓所返還の申し込みは、制度の開始以降、開始前の数倍に増えたという。

墓返還希望者が倍に! 深刻な墓不足で明石市が取り組む“奇策”とは? (2/2) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

東京都の「墓所返還特例制度」についてはこちらです(参照:「墓所返還特例制度」を実施中です! –  東京都公式ホームページ)。

他にも千葉県の市川市では「市川市霊園一般墓地返還促進事業」として、無縁化の恐れのある人を対象に、既に納付済みの墓地使用料の1/3(3年以内に未使用で変換した場合には1/2)を返還し、原状回復費用の助成を行っています(参照:市川市霊園一般墓地返還促進事業 – 市川市公式Webサイト)。また、群馬県の太田市でも、市営八王子山公園墓地における墓地返還時の原状回復費用を軽減する関係条例の改正に向けた動きが始まっています(参照:無縁化防止へ墓じまい補助 区画返還促し再分譲 太田市|社会・話題|上毛新聞ニュース)。このような試みは各地に広がっており、今後も同様の施策を行う自治体は増加していくことでしょう。

意義のある取り組みだが問題もある

墓所の返還時にかかる費用を不要とする特例は、墓じまいの費用負担に悩む人からすれば非常に意味のある施策です。これによってお墓の継承者がいない人や、お墓の管理負担に耐えられない人が解放されるだけでなく、新たな墓地を希望する人への供給もできるなら良い方法だといえるでしょう。

ただ、結局墓石の撤去費用などは、市民や都民の税金で賄われます。無縁仏となれば「墓地、埋葬等に関する法律施行規則」に従った手続きを経なければお墓の撤去などは行えないので、それよりは良いとは言えますが、スピードアップができるだけで経済的な意味合いは大きく変わらないということもいえるのです。

お墓を新たに作り、そのうちお墓を維持できなくなり、それを撤去する。撤去した場所に新たなお墓を作り、また撤去までのサイクルを繰り返す。そのたびに費用はかかり、その費用を負担できない人も増えている。それを行政が負担し、結局は税金が使われる。少し虚しい気もします。

お墓に関する考え方、故人や先祖の供養や追悼のあり方は人それぞれです。従来型の墓地が維持・整備され続けることを望む人ももちろんいらっしゃるでしょう。しかし、超高齢化・多死社会が進展する中で、本当にこれが維持し続けられるかどうかは不透明です。明石市や東京都の特例も、ひと昔前ならあり得なかったことでしょう。物理的な場所の確保や高額な費用を必要としないお墓や追悼のあり方が、もう少し広がりを持って社会に受入れられていく必要があるのではないかと感じます。