遺骨の「処分」に困った場合に選べる方法は?
遺骨を「処分」というと抵抗を感じる人は多いかも知れません。単なる「物」のように遺骨を「処分」しようとする考え自体に嫌悪感を感じる人もいるでしょう。ただ、主に経済的な事情などから遺骨を持っていることが重荷になり、「処分」を考えなければならなくなる人もいます。
≪目次≫
遺骨の「処分」を考えざるを得ない人もいる
近時は遺骨をコインロッカーに置き去りにしたりゴミ箱などに捨ててしまう人もいて、警察に遺失物として届けられている遺骨も多数あります。
人の遺骨が2016年までの3年間で、落とし物として全国の警察に計203件届けられ、8割以上は落とし主が見つかっていないことが毎日新聞の調査で分かった。
このような報道を見て、死者への敬意が足りないと批判することは簡単ですが、経済的な事情でお墓が持てなかったり、お墓があったのにお金がなくて維持できなくなったりした人が自宅に多数の遺骨を保管している場合もあります。火葬場での火葬後遺骨の引き取りを拒否する人もいますので、一度遺骨を引きとっているだけ死者への想いはあるともいえるでしょう。頑張ってはみたものの遺骨のやり場に困る事態に結局陥ってしまったという場合も考えられます。
場合によっては、故人との関係性から遺骨を手放してしまいと強く願う人もいるでしょう。それでも遺骨を手放すには金銭的な負担が避けられないため困ってしまっているということもありえます。
いずれにしても事情はさまざまで、単に批判すれば済むという話ではないのではないかと思えます。
遺骨は正しい方法で手放さないと「罪」になる場合もある
遺骨の「処分」に関する法律の主なものに「刑法」と「墓地、埋葬等に関する法律」があります。
まず刑法には「死体遺棄罪」という犯罪があります。
刑法(死体損壊等)第190条 死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する。
この規定によって「遺骨」を「遺棄」することは犯罪とされていますので、しかるべき手続きをとってお墓などに埋葬するか、自宅できちんと保管するなどしないで、遺骨を捨ててしまうと「死体遺棄罪」(遺骨の遺棄)として警察に検挙されてしまう可能性もあります(実際の逮捕例もあります)。
また、「墓地、埋葬等に関する法律」では墓地以外の場所に焼骨を埋葬することを禁じており、これに違反した場合には罰金、科料または拘留に処せられます。
墓地、埋葬等に関する法律
第4条1項 埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない。
第21条 左の各号の一に該当する者は、これを千円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
1号 第三条、第四条、第五条第一項又は第十二条から第十七条までの規定に違反した者
したがって、遺骨をどこかに埋めてしまえば良いというわけでもありません。他人の土地はもちろんのこと、自分の土地であっても勝手に埋葬してはいけないのです。
遺骨を合法的に手放す方法
遺骨を合法的に手放す方法はいくつか考えられます。
お墓に埋葬する
最も一般的な方法は、自分や親族が管理しているお墓に埋葬することです。現在でも多くの人がこの方法をとっています。
ただ、現時点でお墓がない場合には、お墓を新たに購入しなければなりません。お墓を取得する費用は地域や墓地・霊園によって異なりますが、永代使用料と墓石設置費用などを含めると100万円から300万円程度かかるため、経済的に厳しい状況にある場合には難しい選択です。また、墓を取得したらその後も維持・管理していかなければならず、年に数万円の管理費やお墓への訪問などの負担を継続的に負うことができるというのが前提となります。
したがって、既にお墓がある人やお墓を取得・維持できる人以外にとっては、お墓に埋葬するというのは厳しい場合もあるのです。
永代供養塔などに合祀する
一般的なお墓とは異なり、墓地や霊園、お寺などにある永代供養塔などの合祀施設に埋葬するという方法もあります。この方法であれば、ほとんどの場合費用は合祀してもらうときにだけかかり、その後の管理費などは不要です。また、合祀費用も遺骨1柱につき6万円~10万円程度で済む場合が多く(施設により異なる)、個別にお墓を用意する場合にくらべると金銭的な負担を大幅に抑えることも可能となります。
この方法では、他人の遺骨と同じ場所に埋葬されることになりますが、施設が継続して供養してくれるため宗教心などを持っている人にとっても安心できることが多いでしょう。こういった選択肢があることを知らない人も多いのですが、もっと知られても良いのではないかと思います。
散骨をする
遺骨をお墓や永代供養塔に埋葬するのではなく、散骨するという方法もあります。
散骨のやり方は、葬儀業者が執り行いクルーザーを貸し切ってセレモニーを行うような方法もありますが、費用は25万円から40万円程度かかります。他には、他の数家族と合同で船に乗り込む合同散骨葬、業者が散骨を代行し自分は立会わないような方法もあります。散骨代行業者に散骨を依頼する場合の費用は遺骨1柱につき5万円程度です。
もちろん、きちんとルールを守って行えば、自分自身で散骨することもできます。この方法なら必要な費用は散骨場所への交通費や宿泊費などだけで済むでしょう。ただし、散骨をするためには遺骨を粉状にする粉骨作業が必要となります。焼骨のままで散骨すると「死体遺棄罪」に問われてしまう可能性があるからです。
費用の節約を第一に考えるなら粉骨を自分ですることも考えられますが(参照:粉骨の方法(散骨準備・焼骨のかさを減らして自宅供養する)、作業は物理的にも精神的にも大変ですので粉骨代行業者に依頼するのが良いでしょう。
このように考えると、法律やマナーに違反しないで遺骨を手放す方法のうち最も金銭的な負担が少ないのは、業者で粉骨をしてもらって自分で散骨に行くという方法です。たとえば弊社ではご遺骨1柱につき1万5千円から粉骨作業を承っています。これを利用すればご遺骨1柱につき1万5千円で自ら散骨する準備が整うということです。
散骨は現在社会的な許容度も上がり、法律的にも違法とは考えられてはいません。遺骨を自然に還すという考えで積極的に散骨を選択する人も増えています。ただし、散骨代行業者などに頼まず自分で行う場合には、法律や条例、マナーに反することのないように注意して行わなければなりません。この点に関しては、下記の記事を参照してみてください。
散骨の法律や条例の知識 ~散骨時の注意点やマナーを知るために~(2017.12最新 詳細版)
散骨を自分で行うために必要な準備や手続きはどんなもの?
散骨は合法か違法かについての整理(簡易版)
散骨時に遺骨を細かく粉骨する必要があるのはなぜなのか。
散骨の条例による規制一覧表(簡易版)
散骨場所を選ぶ際の注意点まとめ
生きている人のために
今回の記事では遺骨の「処分」という表現を一部使いました。多くの人にとっては遺骨は単なる「物」ではなく、故人と同じように敬意をもって接するべきものです。しかし、遺骨の「処分」を考える人が必ずしも遺骨に敬意を持っていないとは限りません。「処分」を考えざるを得ないほど難しい状況におかれている可能性もあるのです。
ただ、金銭的に厳しい状況であっても、遺骨を正しく取り扱わないと罪に問われる可能性もあります。また、遺骨をどこかに放置したり捨ててしまったりすれば後々そのことが心の重荷になってしまう可能性もあるでしょう。
「遺骨はお墓に納めるもの」という先入観にとらわれていると、遺骨を抱えて途方に暮れてしまうかもしれません。今回は、そのような思い込みによって苦しんでいる方が少し発想を変えることができるように、どうすれば費用がかからないのかという観点で記事を書いてみました。
人によっては不快に感じることもあるかもしれませんが、遺骨の取扱いに困って今生きている遺族が苦しんでしまっては故人も喜ばないのではないでしょうか。残された遺族が、経済的にも心理的にも苦しまない方法を選ぶことこそが故人の供養になるのではないか、というのがINORIスタッフの考えです。
誰もが安価に選択できる葬送の方法を模索中です。また法律・条例や社会的ルールが向かうべき方向についても日々勉強しています。