安く墓じまいをする方法は合葬墓の利用・自分で散骨

近時、墓じまいをする方が増加しています。墓じまいとは、お墓の墓石を撤去して墓地を更地に戻し、遺骨を取り出して他の場所に移すことをいいます。

墓じまいには、他の場所に新たにお墓を設ける場合も含まれますが、この記事では新たなお墓は設けないことを前提に話を進めます。

木立の間から見える墓の写真

写真と記事とは関係ありません

余裕のないときに墓じまいの機会が訪れることも

墓じまいをする理由は人それぞれですが、最近ではお墓を承継する人がいなかったり、子孫にお墓維持の負担を負わせたくないなどの理由で墓じまいをする人が非常に多くなっています(参照: 墓じまいの現状と人口減少社会 ~次世代に問題を先送りしないために~)。

さらに、地震の多い日本では、震災によってお墓が倒壊してしまったことをきっかけに墓じまいをする人もいらっしゃるようです。

昨年(2018年)9月6日の胆振東部地震以降、札幌市内や胆振管内の霊園や墓地で、墓の区画の使用権を管理者に返還して更地に戻す「墓じまい」が増えている。札幌市営では、地震後の半年間に市へ返還申請のあった墓の5割超が、地震で墓石が倒れるなどの被害を受けていた。少子高齢化で墓の継承が難しくなる中、地震を機に、もともと検討していた墓じまいに踏み切るケースが多いとみられる。

墓じまい、地震で急増 札幌、胆振管内 重い修繕費、跡継ぎなし 3町の申請、大半は被災者:どうしん電子版(北海道新聞) ( )内は筆者が加筆

そもそも、日本のお墓に多い和型石塔は、背も高く、重い石材を積み重ねているので、地震に弱い面があります。家屋が倒壊するような大地震でなくてもお墓が倒れて壊れてしまうことは多いので、中規模地震の際のニュース映像などでは必ずと言っていいほど墓地の様子が流れます。

倒壊してしまったお墓をそのまま放置しておくことはできません。墓地を訪れる人に危険を及ぼしたり、近隣の他のお墓の使用を妨害することにもなってしまうからです。しかし、大規模な震災に見舞われているようなときには、お墓を建て直すような余裕がない場合も多いでしょう。上のニュースでも「地震を機に」と書かれていますが、迷っていた墓じまいをお墓が壊れたことをきっかけに考える方もいらっしゃるのでしょう。

このように余裕がない時期に墓じまいをせざるをえなくなった時には、出来るだけ安価に負担を抑えたいものです。そこで、安く墓じまいをする方法について考えてみました。

安く墓じまいをする手順

墓じまいをする手順や手続、費用相場などに関しては、別記事に比較的詳しく書いています(参照: 墓じまいの方法 ~手順・手続から費用相場・トラブル事例まで~ )が、ここでは「安く」がテーマなので、新たなお墓を自ら新設・購入することはしないことを前提に手順を大まかに見ていきます。

  1. 親族で話し合いをする

    お墓をどうするかについて最終的な決定権を持っているのは「祭祀継承者」(民法897条)です。お墓を引き継ぐ際(先代が亡くなった際)に明確になっているはずですし、多くの場合、長男・長女が祭祀継承者になっていると思いますが、異なる定めになっている場合があるので確認しましょう。
    また、祭祀継承者に決定権限があるといっても、お墓に関係する親族の気持ちも大切で、これを無視して進めると後々トラブルになる可能性もあります。事前に良く話し合いをしておくようにしましょう。
  2. 合葬墓の手配、または散骨を検討する

    新たに家のお墓を新設・購入しないとなると、お墓から取り出したご遺骨を納める先を考えておく必要があります。いわゆるお墓に埋葬するとなると合葬墓・永代供養塔などと呼ばれる合葬型(他の方と同じ場所に埋葬する方式)が最も安価です。また、ご遺骨を山や海に散骨するというのも方法によってはかなり安価な方法になります。
  3. 墓地管理者に連絡して埋葬証明書を取得

    お墓の管理をしているのは、その墓地を管理・運営している墓苑事業者やお寺などです。できるだけ早めに「墓じまいしたい」という旨を伝えましょう。お墓の撤去工事などに指定業者がある場合もありますし、お寺などでは離檀料トラブルを生じさせないためにも大切です。
    さらに、お墓からご遺骨を取り出すときに必要となる「改葬許可証」を自治体から発行してもらうために、墓地管理者から「埋葬証明書」を取得する必要もあります。
  4. 自治体から改葬許可証を取得

    お墓に既に収められているご遺骨を取り出すためには、自治体から「改葬許可証」を発行してもらわなければなりません。「墓地、埋葬等に関する法律」で市町村長の許可が必要だと定められているからです。申請時には、合葬墓に納骨する場合は合葬墓管理者から発行された「受入証明書」が必要となります。散骨する場合には「受入証明書」は不要で、申請書にはとりあえず「自宅供養」などと書いておけば良いでしょう。
  5. 墓石撤去業者への依頼

    お墓を撤去する場合は石材店などの専門業者に依頼します。安くしたいからといって自分で撤去工事をするのは不可能です。非常に重い墓石を撤去するだけでなく、埋葬施設なども更地に戻さなければならないので素人がするべきものでもありません。墓地の指定業者が決められている場合も多いので、墓地管理者に事前に確認をしておきましょう。
  6. 遺骨の取り出し

    お墓から遺骨を取り出す際には、一般的に「魂抜き」「閉眼供養」などといった儀式を行います。この儀式は墓地のあるお寺の僧侶などが読経をするなどするので法要の費用がかかります。費用節約のためにはこの儀式を行わないということも思いつきますが、それはなかなか難しいと思います。墓石の撤去工事を請け負うほとんどの石材店などが、「魂が入ったままの墓石撤去工事は行わない」と考えているからです。
  7. 離檀

    お寺の墓地などの場合は、墓じまいをすることは檀家を離れることを意味します。この離檀をする際には「離檀料」と呼ばれるお布施をお寺に納めるのが通常となっています。離檀料には明確な決まりもないため、時々高額な請求をされたというトラブルも聞きますが、そのような事例は実際には稀だと思われます。
  8. お墓の撤去工事

    依頼した墓石撤去業者によって墓地の原状回復工事を行います。
  9. 合葬墓への納骨あるいは散骨など

    お墓から取り出した遺骨を合葬墓に納骨したり、散骨するなどします。もちろん、自宅に安置しておくという選択もありえます。

墓じまいを安くするためのポイント

上に説明した墓じまいの手順の中から、費用を安くするポイントの絞って少し詳しく解説します。

取り出した遺骨の供養方法で大きく費用が変わる

墓じまいをする際に最初に考えておかなければならないのは、お墓から取り出したご遺骨の行先です。

ただ、新たにお墓を購入・新設などすると、少なくとも100万円以上のお金がかかります(主要自治体の市民アンケートによると、お墓の取得費用で最も多い回答は100〜300万円となっています。 参照:お墓は必要?墓地に関する意識 ~主要自治体での調査を参考に~ )。

そこで、安く墓じまいをするなら、新たな家のお墓を購入することはせず、他の供養方法を考えることになります。

合葬墓の利用

その1つは、合葬墓に埋葬する方法です。

お寺の墓地などに「永代供養塔」と呼ばれる施設があったり、公営墓地でも合葬施設が設けられていることが最近は増えてきています。これらの施設を利用するために必要な費用は、墓地・霊園によって異なりますが、他の方のご遺骨と一緒に埋葬する形式のものであれば、6万円〜10万円程度の費用で納骨できる施設も多くあります。まずは、近隣の墓地・霊園で合葬型施設を探し費用を確認してみると良いでしょう。

墓じまいをする方の多くは、家のお墓を承継する人がいなかったり、引き継いでも将来にわたって維持できるのか不安に感じていたりします。そのような方にとっては、納骨時の一時費用だけで将来にわたって供養してもらえる合葬墓はありがたいものだと思います(ただし、責任をもって供養する期間を30年程度としているような施設もあります)。最近は合葬墓のニーズは急激に高まっており、地方自治体による合葬墓の新設も増えています。また合葬墓の使用申込も殺到している状況ですので、今後、合葬は一般的な納骨方法となっていくのではないかと思われます。

散骨をする

もう1つは散骨をするという方法です。

「散骨」という言葉を知らない人はほとんどいないと思いますが、日本で散骨が急激に増えたのは1991年頃からです。平安時代ぐらいまでさかのぼれば、日本でも散骨は珍しいものではなかったようですが(参照: 散骨の歴史 ~かつて日本では散骨は珍しくなかった~ )、日本では散骨に関する法整備が遅れているため、現在葬送方法として「一般化する」というレベルには至っていません。ただ、国内外で散骨された有名人・著名人は多くいます(参照: 散骨された国内外の有名人・著名人 )。

散骨をするというと、船をチャーターして何十万円もの費用がかかるように思う方もいらっしゃると思いますが、必ずしもそのような形ばかりではありません。現在では散骨を代行する業者もいます(費用は概ね5万円程度)。

最も安く散骨をする方法は、自分で散骨をすることです。ただし、散骨をする場所や方法によっては違法性が生じたり、トラブルになる可能性もありますので、ある程度事前に知識を得てから行うようにしましょう。法律や条例の規制に関する知識と、散骨をする際のマナーについては良く知っておくべきだと思います(参照: 散骨の法律や条例の知識 ~散骨時の注意点やマナーを知るために~(2017.12最新 詳細版))。

尚、散骨をする際には、事前にご遺骨を粉骨しておくことが必要です。自分で粉骨するのは物理的にも心理的にも難しいので、粉骨代行業者に依頼するのがおすすめです。粉骨の費用は、一般的にはご遺骨1柱あたり3万円程度となっていますが、弊社では1万5千円で承っています(2019.4.11現在の価格。尚、お墓に納骨されていたご遺骨の場合、別途乾燥料金が必要です。)。

墓地やお寺などへの連絡・相談は早めに率直に

墓じまいをスムーズに進めるためには、関係各所への連絡や相談をできるだけ早めに行うことが大切です。

撤去工事の手配をする際にも、墓地やお寺から情報を得る必要があります。特に、お寺などについては、長年菩提寺としてお墓を守ってきてくださったという感謝の気持ちをもって、早めに丁寧な連絡・説明をすることをおすすめします。墓じまいをするスケジュールなどだけでなく、墓じまいをする理由などを率直にお話すれば親身になってくれるお寺も多いでしょう。経済的に厳しい場合には、そのような事情も話しておけば、閉眼供養や離檀などに関して必要となるお布施に関しても配慮してくれるお寺も多いのではないでしょうか。

時々高額な離檀料トラブルの話なども耳にしますが、そのような事例はよほど悪質なお寺であるか、離檀に関する連絡の不備や失礼などによって感情的に関係がもつれてしまったことが背景にあることが多いようです。もちろん、感謝や礼儀が大切ではありますが、無駄な出費をしないためにも関係者への説明は早めにしっかりとしておく方が良いということです。

できるだけ相見積もりを取る

お墓の撤去工事は石材店などに依頼することになります。墓地によっては規約で指定業者以外への依頼を認めていないところもありますが、複数の業者を選択できるのであれば、必ず事前に相見積もりを取るようにしましょう。その際、「他の業者さんにも見積を依頼している」旨を伝えておくことが大切です。やはり競合がいるということを意識すれば、多少なりとも価格を安く提示してくることも多くなるはずです。

もちろん、業者の対応のあり方によって希望の依頼先がある場合もあるでしょう。その価格が他の業者よりも高い場合には「他の業者の方が価格は安いが、できればおたくで依頼したい、多少なりともなんとかならないか」と声をかけてみるというのも1つの方法です。

できることは自分でする

たとえば、市町村役場から改葬許可証を得るために申請書を提出するにあたり行政書士などに依頼する人もいます。すると、行政書士によりますが3万円〜5万円程度の費用がかかる場合もあります。しかし、改葬許可の申請はけっして難しいものではありませんし、わからないことがあれば役所で質問すれば教えてもらえます。世の中には書類が苦手、役所への申請などが苦手、という人もいますが、自分でやってしまえば簡単なことも多いものです。無駄な費用を抑えるために自分でできることは自分でするようにしましょう。

また、墓じまいに関するアドバイスを有料でしている業者や、墓じまい一式を代行している業者もあります。アドバイスだけでお金を取る業者はあまりおすすめできませんが、墓じまい代行業者であれば価格によっては依頼することも選択肢になるでしょう。しかし、その場合も費用の内訳をよく説明してもらい、自分でした方が安くならないか良く比較してみることが大切です。ただ、面倒や手間を省くというところに価値を見出せるなら費用が多少かかっても依頼する価値がある場合もあるでしょう。

時にはお墓のことを考えましょう

年中お墓のことを考えているという人はほとんどいないと思いますが、いざという時になるとお墓の問題は大きな負担になることがあります。お墓を承継する人がいない人は、出来る限り早めにお墓をどうするのかについて検討しておいた方が良いでしょう。

また、震災などでお墓が倒壊したりすると、厳しい状況の中でお墓をどうするのか考え、行動しなければならなくなります。そのような状況の下にいる方に少しでも参考にしていただければとこの記事を書きました。

この記事では、墓じまいをして取り出したご遺骨を供養する最も安い方法として、合葬墓の利用と散骨を紹介しました。ただ、合葬墓に納骨する場合(骨壺ごとに管理する方式ではない場合)、ご遺骨は二度と取り戻すことはできません。また、散骨の場合も、良く考えないで行うと、「遺骨に二度と会えない」と落ち込むような方もいないわけではありません。

しかし、ご遺骨が土に還ることや、散骨でいわば「地球がお墓」になることは、むしろ自然なことであるともいえます。ここに関しての考え方は個々人によって異なるでしょう。ただ、大切なことは故人を悼む方の心が安らかであることですから、できることであれば普段からお墓やご遺骨の将来について少しずつ考えておくことが大事なのではないかと思います。