散骨場所を選ぶ際の注意点まとめ
散骨を自分でする場合には、散骨場所の選定を慎重に行う必要があります。散骨について正面から定めた法規制はありませんが、他の人の権利を侵害しないこと、自然環境への配慮、周囲の人々の感情への配慮などをきちんとしないと、トラブルになる可能性も否定できません。遺骨は遺族にとっては大切で愛しいものかもしれませんが、他人からすればあまり気持ちよいものではないことも事実です。散骨という大切な葬送にあたって他の人とトラブルになることは避けたいものです。
そこで、散骨場所を選定するにあたって注意すべきポイントについてまとめました。
≪目次≫
明確に禁止されている場所(法律・条例)
現在、法律で散骨が禁止されている場所はありません。
ただし、各地方自治体が独自に条例で散骨を禁止している場合があります。たとえば、北海道の長沼町1や岩見沢市2、埼玉県の秩父市3 4などの条例には、「何人も、墓地以外の場所で焼骨を散布してはならない。」といった文言があります。これらの地域では、自分の土地や土地の権利者が承諾している場合であっても散骨することは条例違反となるので注意が必要です。
また、静岡県の熱海市5や伊東市6では、海洋散骨を行う海域などについてガイドラインを設けています。これらはあくまで「ガイドライン」「指針」と呼ばれるもので法的拘束力はありません。また、熱海市のガイドラインは散骨事業者に対するもので個人を対象とはしていません。しかし、だからといって個人が散骨する場合にこれらに反するようなやり方をすれば、地域住民とのトラブルになる可能性は否定できません。
自治体の条例による散骨への規制は少しずつ増えてきましたが、それら規制の多くは散骨事業者を対象とするもので個人を対象にすることは稀です。とはいえ、各自治体における散骨に関する悩みを表現しているとも言えますので、個人を対象としていなくてもその趣旨を良く理解しなければなりません。また、新たに条例が制定されることもあります。したがって、散骨場所を選定する場合には、該当する自治体に一度問い合わせをしてみるぐらいの慎重さは必要でしょう。
散骨に関係する法律や条例については別記事で書いていますので興味のある方はご参照ください(参照:散骨の法律や条例の知識 ~散骨時の注意点やマナーを知るために~(2017.12最新 詳細版))。
権利関係の問題
どんなに山深い森林であっても、土地には誰かの権利があります。そのような土地に勝手に散骨すれば、権利侵害として後々問題になる可能性があります。それは土地だけではなく、海や川などでも同様です。
土地所有権などへの注意
自己所有の土地での散骨
自分が所有する土地に散骨することは問題ありません。実際、ご自分の家の庭に散骨される方もいらっしゃいます。故人の住み慣れた場所で、家族と最も近い場所だということが、庭への散骨が選ばれる理由です。
ただし、近隣の方々の目につくような場所や他人所有の土地に近接した場所に散骨をすることは、近隣関係に亀裂を生じさせる可能性がありますのであまりお勧めはできません。また、土地を売却する可能性がある場合には散骨を避けておいた方が良いでしょう。やはり遺骨が撒かれたとなれば資産価値が低下する可能性があるからです(「黙っていればわからない」と考える人もいるかも知れませんが、資産価値に影響を及ぼす可能性のある事項で売主が知っている事情を隠すと、告知義務違反として後日トラブルになる可能性はあります)。
また、自己所有の土地であっても、地上権など他人の権利が設定されているような場合には、権利者の承諾なく散骨をすればトラブルになりますので注意が必要です。
※ なお、自己所有の土地であっても、遺骨の上に土をかけるなどすればそれは「埋葬」と見なされ、「墓地、埋葬等に関する法律」(墓埋法)7に違反することになるので注意が必要です。
他人所有の土地での散骨
他人所有の土地に散骨をすることは原則として許されません。他人所有の土地を散骨場所にできるのは、所有者の明確な承諾がある場合だけです。承諾なく散骨をすれば不法行為による損害賠償請求の対象になることも考えられます。また、承諾がある場合でも、近隣への配慮などは必要です。
漁業権や観光資源への配慮
特に海での散骨などで問題になるのは、漁業権との関係です。漁業者の心情を害するだけでなく、海産物への風評被害などに繋がる可能性もあるからです。土地と異なり所有権の対象にならないといっても、その場所に権利が存在しないわけではないのです。
また、景勝地として観光資源として扱われているような海域や観光航路があるような海域は、観光客の持つイメージへの影響に配慮しなければなりません。各観光地はそれぞれのブランドイメージによって観光産業を成り立たせています。遺族としては有名な観光地に散骨したい気持ちもあるかもしれませんが、それが観光産業にダメージを与える可能性は良く考えましょう。先に挙げた熱海市や伊東市がガイドラインを設けてブランドイメージの維持を図ろうとしているのも、散骨されることがマイナスに影響する可能性を示しています。
沿岸部や漁業権のある海域、海水浴場や観光航路のルート付近などでの散骨はしないようにしましょう。
自然環境や住環境への配慮
散骨が自然環境を害するとは断言できません。ただ、焼骨には六価クロムという人体に有害な物質が含まれていることが多いことはわかっています。そのため、たとえば山林中の同じ場所に散骨を繰り返せば、その土地は六価クロムによる汚染が溜まっていくことになります(弊社ではご遺骨の粉骨の際に、六価クロム検査、六価クロム検出時の無害化処理を標準で行っています(参照:粉骨サービス内容・料金・ご利用方法))。
有害物質という観点以外でも、河川や湖沼は水源として利用されていることも多く、飲料水や農業水利としてその水を使用する人々の心情を害する可能性があります。また、海の沿岸部などは人の立ち入りも多く、その人々の心情を害する可能性にも配慮しなければなりません。
まとめ
このように、散骨はどこででもできるわけではありません。特に地上で散骨することは結構難しいことがわかります。時々「登山して散骨してきた」という話を耳にすることもあるでしょうが、それは権利者の承諾を得ているか、あるいは厳密にはルール違反の散骨をしているのかどちらかでしょう。「ばれなければ良い」という考えもあるかもしれません。「自分がするぐらい些細なこと」と考える人もいます。しかし、それが故人を弔う方法として適切なのかどうかは良く考える必要があるでしょう。
適切な散骨場所だといえるのは、ご自分が所有する土地か、沿岸から十分な距離のある沖合の海上です。
適切な場所を選んで散骨をすることが、穏やかに故人を見送ることに繋がることだと思います。
下記は散骨場所についてまとめた表です。
場所 | 散骨の可否 | |
地上 | 自己所有の土地 | 可能。 ただし、近隣住民への配慮は必要。 また、転売可能性がある場合は財産的価値の低下に注意。 |
他人所有または他人の権利が存する土地 | 不可。 ただし、権利者の明確な承諾がある場合は可能。 その場合も近隣住民への配慮は必要。 |
|
河川・湖沼 | 不可。 | |
海上 | 沿岸部 | 不可。 |
漁業権のある海域 | 不可。 | |
海水浴場・観光船航行ルートの近隣 | 不可。 | |
上記以外で沿岸から十分な距離のある沖合 | 可能。 |
誰もが安価に選択できる葬送の方法を模索中です。また法律・条例や社会的ルールが向かうべき方向についても日々勉強しています。